コミュニティ立ち上げ前に必須:目的・ゴールの明確化と共有ガイド
はじめに
近年、企業活動においてコミュニティ形成の重要性が広く認識されています。特に製品やサービスのユーザーコミュニティは、顧客エンゲージメント向上、製品改善への貢献、サポートコスト削減など、多岐にわたるメリットをもたらす可能性を秘めています。しかし、いざコミュニティを立ち上げようとした際、何から始めればよいのか、どのように運営すれば活性化できるのか、といった疑問を抱える担当者の方も少なくありません。
コミュニティ運営には様々な要素がありますが、その中でも最も基盤となるのが「目的・ゴールの明確化」です。船が進むべき方向を示す羅針盤のように、コミュニティの目的・ゴールが定まっていなければ、どのようなメンバーを集め、どのような活動を促進し、どのような成果を目指すのかが曖昧になってしまいます。
この記事では、コミュニティ立ち上げを検討している担当者の皆様に向けて、なぜ目的・ゴールの設定が重要なのか、どのように設定し、そしてどのようにメンバーと共有していくべきなのかを、体系的に解説します。
なぜコミュニティの目的・ゴール設定は重要なのか
コミュニティの目的・ゴールを明確にすることは、その後の運営の成功を左右する決定的な要素です。具体的には、以下の点で重要となります。
- 運営の方向性を示す: コミュニティが何を目指す場所なのかが明確であれば、運営者はどのようなコンテンツを提供し、どのようなルールを設け、どのような活動を支援すべきかの判断基準が得られます。これにより、運営方針の一貫性が保たれます。
- メンバーの期待値を揃える: 参加を検討している、あるいは参加したメンバーに対して、「このコミュニティは〇〇を目指す場所です」「ここでは〇〇のような交流や活動ができます」と示すことで、メンバーは自身の期待とコミュニティが提供する価値が一致するかを確認できます。これにより、ミスマッチを防ぎ、質の高い参加を促すことができます。
- 参加動機を喚起する: メンバーは、そのコミュニティに参加することで自身の何らかのニーズ(情報収集、スキルアップ、仲間との交流、貢献など)が満たされることを期待します。明確な目的・ゴールは、メンバーが「なぜこのコミュニティに参加するのか」という動機を形成する上で強力なインセンティブとなります。
- 活動の焦点合わせ: 日々の運営やイベント企画、新しい施策を検討する際に、「これはコミュニティの目的・ゴールに貢献するか」という問いを立てることで、優先順位をつけ、効果的な活動にリソースを集中させることができます。
- 成果測定の基準となる: コミュニティの成功をどのように評価するのかは、設定した目的・ゴールに基づきます。例えば、「製品のQ&A解決率向上」が目的であれば、解決済みの質問数を追うといった具体的な指標(KPI)に繋がります。
- ステークホルダーへの説明責任: 社内の関係部署や経営層に対し、なぜコミュニティが必要なのか、何を目指しているのか、どのような成果が出ているのかを説明する際にも、明確な目的・ゴールは不可欠です。
目的・ゴールが曖昧なまま運営を開始してしまうと、場当たり的な施策に終始したり、メンバー間で期待値のずれが生じたりする可能性が高まり、結果としてコミュニティの活性化や継続が困難になるリスクが増大します。
コミュニティの目的・ゴール設定ステップ
では、どのように目的・ゴールを設定すればよいのでしょうか。ここでは、基本的なステップを解説します。
ステップ1:コミュニティの「誰のため」を明確にする
まず、そのコミュニティがどのような人々を対象とするのかを明確にします。単に「ユーザー」とするのではなく、「〇〇製品の△△機能を使っている開発者」「サービス□□を始めたばかりの初心者」「特定の趣味に深い知識を持つ上級者」といったように、具体的なターゲット層を定義します。ペルソナ設定の手法などを活用するのも有効です。ターゲットが明確になることで、その人々がコミュニティに何を求めているのか、どのような課題を抱えているのかが見えてきます。
ステップ2:運営側の「なぜやるのか」を定める(目的)
次に、運営者(企業やプロジェクト)として、なぜこのコミュニティを立ち上げるのか、コミュニティを通じて何を達成したいのか、という根本的な「目的」を定めます。これは、ビジネス的な視点とコミュニティそのものの視点の両面から検討します。
- ビジネス視点の例:
- カスタマーサポートへの問い合わせ削減
- 製品改善のためのユーザーフィードバック収集
- ブランドロイヤリティの向上
- 新規顧客獲得のためのリード生成
- ユーザー間の互助によるオンボーディング促進
- コミュニティ視点の例:
- ユーザー同士が自由に情報交換できる場を提供する
- 共通の興味を持つ人々が集まり、学び合えるようにする
- ユーザーが抱える孤独感を解消し、安心できる居場所を作る
- 特別なスキルを持つユーザーが貢献し、認められる機会を作る
これらの目的は複数あっても構いませんが、優先順位をつけたり、主軸となるものを明確にしたりすることが重要です。
ステップ3:メンバーにとっての「ここで何ができるか」を言語化する(ゴール/ビジョン)
ステップ2で定めた運営側の目的を、ターゲットメンバーにとって魅力的で、共感を得られる「ゴール」や「ビジョン」として言語化します。これは運営者の一方的な目標ではなく、メンバーも共に目指したくなるような、コミュニティ全体のありたい姿を示すものです。
例えば、「カスタマーサポートへの問い合わせ削減」という運営側の目的があったとしても、それをそのままメンバーに伝えても響きません。代わりに、「互いの知識や経験を共有することで、製品に関する疑問をいち早く解決できるコミュニティ」といった形で、メンバーにとってのメリットやコミュニティで達成できることとして表現します。
この際、「私たちは〜を目指します」といった運営者視点の言葉だけでなく、「このコミュニティでは、あなたも〜できるようになります」「ここでは〜を一緒に実現できます」といった、メンバーを主語にした言葉遣いを意識すると、より共感を呼びやすくなります。
ステップ4:目的・ゴールを「具体的な状態」でイメージする
設定した目的・ゴールが抽象的すぎると、具体的な運営施策に落とし込みにくくなります。可能な範囲で、「目的が達成された状態とは具体的にどのような状態か」をイメージし、言語化してみます。これは必ずしも定量的な数値目標(KPI)である必要はありませんが、コミュニティの雰囲気やメンバー間のやり取りの質など、定性的な目標も含めて具体的に記述してみるとよいでしょう。
例えば、「ユーザー同士が学び合える」というゴールであれば、「特定分野のエキスパートメンバーが初心者からの質問に積極的に回答している状態」「メンバー発の勉強会や情報交換会が自然発生的に行われている状態」などが具体的な状態として挙げられます。
設定した目的・ゴールを効果的に共有する方法
目的・ゴールは設定するだけでなく、コミュニティメンバーを含むすべての関係者に明確に共有することが重要です。共有を徹底することで、メンバーは安心して参加でき、運営者はブレなく活動を進められます。
- コミュニティの紹介文・説明欄: コミュニティプラットフォームの紹介ページや、グループの説明欄など、多くの人の目に触れる場所に、目的・ゴールを簡潔かつ魅力的に記載します。
- 立ち上げ時のアナウンス: コミュニティを公開する際や、メンバー募集を開始する際に、設立の意図とともに目的・ゴールを丁寧に伝えます。なぜこのコミュニティが必要なのか、ここで何を目指すのかを語りかけます。
- オンボーディングプロセス: 新規参加メンバー向けのガイドや最初のメッセージなどで、改めてコミュニティの目的・ゴールを伝えます。早い段階で期待値を揃えることが、その後の定着に繋がります。
- 運営者からの定期的メッセージ: コミュニティの活動報告や今後の展開についてアナウンスする際などに、立ち返るべき目的・ゴールに改めて触れます。繰り返し伝えることで、メンバーの意識に定着させます。
- イベントや施策の文脈で言及: 特定のイベントや新しい施策を告知する際に、「これは〇〇という目的(ゴール)を達成するためのものです」と説明を加えることで、施策の意図が伝わりやすくなり、メンバーも目的を再認識できます。
- ガイドラインやルールへの反映: コミュニティのルールやガイドラインを策定する際に、その背景となる目的・ゴールを示すことで、ルールがなぜ存在するのかがメンバーに理解されやすくなります。
- メンバーとの対話: メンバーとの日々のコミュニケーションの中で、コミュニティの目的・ゴールに関する話題が出た際に、丁寧に説明したり、メンバーの理解を確認したりします。
目的・ゴールは一度決めたら終わりではありません。コミュニティの成長や外部環境の変化に合わせて、定期的に見直し、必要に応じて調整することも検討します。その際も、変更の理由や新しい目的・ゴールをメンバーに丁寧に説明し、共にコミュニティを創っていく姿勢を示すことが大切です。
まとめ
コミュニティ運営を成功させるためには、まずその土台となる目的・ゴールを明確に定義し、関係者間でしっかりと共有することが不可欠です。目的・ゴールは、運営の羅針盤となり、メンバーの参加動機を育み、活動に一貫性をもたらし、成果を測定するための基準となります。
この記事で解説したステップを参考に、ターゲットを定め、運営側の目的を掘り下げ、それをメンバーが共感できるゴールとして言語化し、そして設定した目的・ゴールを様々な機会を通じて効果的に共有してみてください。
明確な目的・ゴールを持つことは、コミュニティを単なる人々の集まりではなく、共通の目的に向かって共に活動する「共創の場」へと発展させる第一歩となります。立ち上げ初期のこの重要なステップを丁寧に進めることが、持続的に活性化するコミュニティを築く鍵となるでしょう。