コミュニティ運営を加速させるファシリテーション技術入門:交流と活性化の基本
はじめに
コミュニティを立ち上げ、運営していく上で、「メンバー間の交流が少ない」「一部のメンバーしか発言しない」「どうすればコミュニティが盛り上がるのか分からない」といった課題に直面することは少なくありません。このような状況を改善し、コミュニティを活性化させるためには、単に場を提供するだけでなく、運営側が意図的にメンバー間の相互作用を促進し、質の高いコミュニケーションをデザインしていく必要があります。そのために不可欠なスキルが「ファシリテーション」です。
本記事では、コミュニティ運営におけるファシリテーションの基本的な考え方とその重要性、そして具体的な実践方法について解説します。コミュニティ運営の経験が浅い担当者の方でも、本記事を読むことで、メンバーが自然と参加し、活発な交流が生まれるコミュニティ作りへの第一歩を踏み出すことができるでしょう。
コミュニティ運営におけるファシリテーションとは
ファシリテーション(Facilitation)とは、「容易にする」「促進する」「円滑に進める」といった意味を持つ言葉です。ビジネスの文脈では、会議やワークショップなどで、参加者全員が意見を出しやすく、合意形成に至りやすいように、中立的な立場で支援することを指すのが一般的です。
これをコミュニティ運営に当てはめると、ファシリテーションとは、コミュニティの目的達成やメンバー間の健全な関係構築を目指し、運営者が主体的にメンバー間の交流、情報交換、相互学習などを促進し、コミュニティ全体の活動を円滑に進めるための働きかけ全般を指します。
ファシリテーターである運営担当者は、自らが主役になるのではなく、あくまでメンバーが主体的に活動できるようサポートする役割を担います。メンバーの発言を引き出し、異なる意見を尊重し、建設的な対話が生まれる場を作り出すことが求められます。
なぜコミュニティ運営にファシリテーションが必要なのか
コミュニティは、多様な背景や目的を持つ人々が集まる場です。運営側が積極的にファシリテーションを行わない場合、以下のような課題が発生しやすくなります。
- 一部メンバーの寡黙化: 発言が得意なメンバーや古参メンバーばかりが発言し、新規メンバーやシャイなメンバーが発言しにくくなる。
- 交流の停滞: 共通の話題やきっかけがないと、メンバー同士の自然な交流が生まれにくい。
- 誤解や対立の発生: オンラインでのテキストベースのコミュニケーションなどでは、意図が正確に伝わらず、誤解や小さな対立に発展することがある。
- 活動のマンネリ化: 特定の活動ばかりになったり、新しいアイデアが出にくくなったりする。
- 運営への無関心: メンバーが「お客さん」のような状態になり、コミュニティ運営への協力や提案が生まれにくい。
ファシリテーションは、これらの課題を解消し、コミュニティをより健康的で活発な状態に導くための有効な手段です。
- 参加促進: 全てのメンバーが安心して意見を表明できる雰囲気を作り出すことで、参加へのハードルを下げます。
- 交流活性化: メンバー同士が互いに関心を持ち、自然な対話や協力を生み出すきっかけを提供します。
- 意見集約と合意形成: 多様な意見を整理し、コミュニティとしての方針や活動目標を明確にするプロセスを支援します。
- 問題解決: 発生した課題やメンバー間の小さな対立に対して、建設的な解決策を見出すための対話を促します。
- 心理的安全性の向上: どのような意見や質問も歓迎されるという安心感(心理的安全性)を高め、オープンなコミュニケーションを可能にします。
コミュニティ運営における基本的なファシリテーションスキル
コミュニティ運営において活用できる基本的なファシリテーションスキルをいくつかご紹介します。
1. 聞く力(傾聴)
単に耳を傾けるだけでなく、相手の発言の意図や感情を理解しようと努める姿勢です。メンバーの発言に対して相槌を打つ、目を見て話す(オンラインであれば画面を見る)、要約して確認するなど、積極的に聞いていることを示すことが重要です。これにより、メンバーは「自分の発言は受け止められている」と感じ、安心して話せるようになります。
2. 問いかける力
メンバーから意見や情報を引き出すための質問スキルです。「〜についてどう思いますか?」といったオープンな質問は、メンバー自身の考えを引き出しやすくします。特定のメンバーに話を振る、少し沈黙ができた際に改めて問いかける、といった工夫も有効です。ただし、問い詰めたり、特定の答えに誘導したりするような質問は避けるべきです。
3. まとめる力(要約・整理)
メンバーから出た意見や情報を整理し、分かりやすく要約して共有するスキルです。議論が多岐にわたった場合や、様々な意見が出た場合に、それらを構造化して提示することで、メンバーは全体の流れやポイントを理解しやすくなります。「今出た意見をまとめると、Aという意見とBという意見、そしてCという懸念点があるということですね」のように、メンバーの発言を肯定的に受け止めつつ整理することが大切です。
4. 場を整える力
コミュニティの雰囲気や環境を物理的・心理的に整えるスキルです。 物理的な場としては、オンラインであればツールの使い方を明確にする、オフラインであれば席順を工夫するなどがあります。 心理的な場としては、誰もが安心して発言できる心理的安全性を醸成することが最も重要です。否定的な言葉遣いをしない、多様な意見があることを前提とする、参加を強制しない、といった配慮を通じて、ポジティブな雰囲気を作り出します。コミュニティのルールやガイドラインを適切に運用することも、安心できる場作りに貢献します。
5. 関係構築力
運営担当者自身がメンバーと良好な関係を築くことです。一方的な情報提供者ではなく、同じコミュニティの一員として、メンバーに関心を持ち、敬意をもって接することで、メンバーからの信頼を得やすくなります。信頼関係は、心理的安全性の基盤となり、率直な意見交換を可能にします。
コミュニティ運営における具体的なファシリテーションテクニック
基本的なスキルに加え、コミュニティ運営で役立つ具体的なテクニックをいくつか紹介します。
1. アイスブレイクの活用
活動の開始時や、新しいメンバーが参加した際などに、緊張をほぐし、参加者同士が打ち解けやすい雰囲気を作るための軽いアクティビティです。簡単な自己紹介、最近あった良いことの共有、共通点探しなど、様々な形式があります。オンラインでもチャット機能を活用したり、短いブレイクアウトルームを活用したりすることで実施可能です。
2. ポジティブ・フィードバックと承認
メンバーの発言や行動に対して、積極的に肯定的なフィードバックや承認を行うことです。「〇〇さんの視点、とても参考になります」「△△さんが提案してくれたアイデア、素晴らしいですね」「コメントありがとうございます!」のように、具体的な行動や発言を褒めることで、メンバーの貢献意欲を高め、コミュニティへの愛着を深めます。
3. 沈黙への向き合い方
オンライン・オフラインに関わらず、発言者が途切れて沈黙が生じることがあります。この時、焦ってすぐに次の話題に移ったり、運営担当者ばかりが話し続けたりするのではなく、数秒待ってみることも重要です。考える時間が必要なメンバーもいます。また、「何か気になる点はありますか」「今の話を聞いて、思いついたことはありますか」のように、改めて問いかけ直すことも有効です。
4. 議論の可視化
オンラインホワイトボードツールや共有ドキュメントなどを活用し、出た意見やアイデアをリアルタイムで書き出して共有することです。これにより、議論の全体像が把握しやすくなり、メンバーは他の意見を参考にしながら自分の考えを深めたり、新しいアイデアを発想したりしやすくなります。議論の整理にも役立ちます。
5. ネガティブな言動への対応
コミュニティ内で誹謗中傷や攻撃的な発言、コミュニティの目的から大きく逸脱した発言があった場合、ファシリテーターは適切に対応する必要があります。感情的にならず、落ち着いて対応規約やガイドラインに則った対応を行います。場を一時的に中断したり、当事者に個別に連絡を取ったりすることも検討します。これは、コミュニティの安全性を保つために非常に重要なファシリテーションの役割です。
おわりに
コミュニティ運営におけるファシリテーションは、メンバーが互いに貢献し合い、活発に交流するための「縁の下の力持ち」のような役割を担います。特別なスキルが必要だと難しく考える必要はありません。まずは「メンバーの話をよく聞く」「分かりやすく伝える」「誰もが安心して話せる場を作る」といった基本的な姿勢を意識することから始めてみてください。
ファシリテーションは一度学べば終わりではなく、コミュニティのフェーズやメンバーの変化に応じて、継続的に学び、磨いていくべきスキルです。積極的にメンバーとの関わりを持ち、試行錯誤を重ねることで、必ずコミュニティの活性化に繋がります。
『共創住居LAB』では、今後もコミュニティ運営に役立つ様々なノウハウを研究・共有してまいります。本記事が、あなたのコミュニティ運営におけるファシリテーション実践の一助となれば幸いです。